【日中映画製作者カンファレンス】春本雄二郎(監督)×李娜(プロデューサー)×市山尚三(プロデューサー)

Mar 27, 2022

2022.3 実施

主催:経済産業省
運営:公益財団法人 ユニジャパン

日中映画製作者カンファレンス」開催の経緯

 中国の映画産業はここ数年大きく躍進し、1兆円に迫る規模に成長しました。北米と双璧をなす巨大市場として、世界中の映画製作者の注目を集める存在となっています。新型コロナ感染拡大の影響でその勢いは少し鈍化しましたが、低調な成長を続ける他国・地域と比較しても、興行収入・動員数・スクリーン数等、目覚ましい発展を遂げました。一方、外国映画はスクリーンクオータ制により年間公開本数が制限されています。日本と中国は「映画共同製作協定」を締結しており、協定に基づく認定を受けた共同製作作品は、中国においても「中国映画」とみなされ、クオータ制の制限を受けることなく大きな市場の配分を受けることが可能となります。

 国際共同製作においては、資金調達や制作環境の違いなどのハードルがありますが、何より人的な信頼関係の構築が最も重要です。日本映画がリバイバルヒットし、日本映画のリメイク作品が興行的な成功をおさめるなど、日本映画の中国市場でのポテンシャルが示されてきているいま、コロナウィルス感染症により交流が難しい状況が続く中で、オンラインによるカンファレンスを企画しました。

 中国との国際共同製作を積極的に推し進め、双方に魅力的な作品づくりを行っていくには何がカギとなるのか。日中の「日中映画製作者カンファレンス」では、日中の映画業界で精力的に活躍しながら国際的な視座が高い映画製作者をお招きし、今後の両国の映画製作現場の現状、そして今後の日中共同製作への展望を語っていただきました。

                

カンファレンス登壇者

             

カンファレンス登壇者

■市山尚三

1963年生まれ。松竹、オフィス北野をベースに主に海外の映画作家の作品をプロデュースする。主な作品にホウ・シャオシェン監督の「フラワーズ・オブ・シャンハイ」(1998)、カンヌ映画祭審査員賞を受賞したサミラ・マフマルバフ監督の「ブラックボード」(2000) 、カンヌ映画祭脚本賞を受賞したジャ・ジャンクー監督の「罪の手ざわり」(2013) 等がある。

また1992年から1999年まで東京国際映画祭の作品選定を担当。2000年に映画祭「東京フィルメックス」を立ち上げ、ディレクターを務めた。2013年より東京藝術大学大学院映像研究科の客員教授。2019年、川喜多賞受賞。2021年、東京国際映画祭プログラミング・ディレクターに就任。

■春本雄二郎

1978年生まれ。日大芸術学部映画学科卒業。初監督長編映画『かぞくへ』は、第29回東京国際映画祭に公式出品され、第23回フランス・ヴズール国際アジア映画祭では、NETPAC賞(最優秀アジア映画賞)など3冠受賞。

2018年に、独立映画製作団体『映画工房春組』を立ち上げ、「映画監督と市民が直につながった映画製作」を掲げ、活動をスタート。2020年、自身が脚本・監督・プロデュースする第2回長編映画『由宇子の天秤』を映画工房春組の第一弾製作として、完成。同作は、世界三大映画祭の1つ、第71回ベルリン国際映画祭のパノラマ部門にノミネートされる。また、第25回釜山国際映画祭、新人監督コンペティション部門では最高賞『ニューカレンツアワード』を受賞。中国の巨匠ジャ・ジャンクー設立の平遥国際映画祭では日本人として初となる『審査員賞』と『観客賞』の2冠を達成。世界で30以上の映画祭に選出・招待されている。

■李娜(LI Na /リー・ナー)

北京大学卒業。プロデューサーのほかに、映画配給、企画、翻訳などを行う。 マンモク株式会社社長。主なプロデュース作品に『最後の晩餐』(12/中韓合作)、『20歳よ、もう一度』(14/中韓合作)、『Caffè 珈琲風暴(原題)』(16/中伊合作第73回ヴェネチア映画祭<ヴェニス・デイズ>正式出品、第 62 回 ダヴィッド・デイ・ドナテッロ賞優秀プロデューサー賞ノミネート)、『柳川』(20/中日韓合作)などがある。『20歳よ、もう一度』は3.7億元(約67億円)の興行収入を記録し、中韓合作映画としては現時点でも歴代最高興行収入成績を保持している。

また、『万引き家族』(18)は中国における邦画実写映画として最高興行収入を記録。その他、『パラサイト 半地下の家族』、『82年生まれ、キム・ジヨン』などの買い付けも行っている。

■徐昊辰(じょ・こうしん) 
映画ジャーナリスト。1988年中国・上海生まれ、2007年来日、立命館大学卒業。

2008年から中国の映画専門誌「看電影」「電影世界」、ポータルサイトSINA、SOHUなどで、日本映画の批評と産業分析を続々発表。2016年には、北京電影学院に論文「ゼロ年代の日本映画~平穏な変革」を発表。中国最大のSNS、微博(ウェイボー)のフォロワー数は約280万人。毎日、日本映画の情報や分析を発信中。映画.COMコラム「どうなってるの?中国映画市場」連載中。

その他、現在以下の業務を執り行い、日本と中国の映画界で活躍している。

・上海国際映画祭プログラミング・アドバイザー

・WEB番組「活弁シネマ倶楽部」の企画・プロデューサー

・日本映画プロフェッショナル大賞選考委員

・微博公認・映画評論家、年間大賞選考委員

カンファレンス〜春本雄二郎(監督)×李娜(プロデューサー)×市山尚三(プロデューサー)〜

 国内外で数多くの賞を得た『由宇子の天秤』の春本雄二郎監督は、まず社会的テーマの低予算映画になかなか資金が集まりづらい現状を説明。国内での回収が難しい日本映画産業から一歩踏み出し、海外市場での積極的な展開を見据えた際に、同作が中国の映画祭で熱狂的に迎えられたことを受け、中国との国際共同製作の可能性・マーケットの活用を意識した質問が多くぶつけられました。

 中国においては、共感を得やすい内容、クチコミ、効果的な宣伝方法などを駆使すれば興行収入を期待できると語る李娜プロデューサー。検閲への対応や国際共同製作のメリット、具体的な制作・宣伝費、中国独特のマーケティング手法など、中国との共同製作を進める上でのポイントを的確にお答えいただきました。

 ジャ・ジャンクー監督作品等、これまで多くの作品を中国と手がけてきた市山尚三プロデューサーもカンファレンスに加わり、中国との国際共同製作の今後の可能性について活発な議論となりました。

1 いちばん武器になるのは海外の映画祭 (春本) 

春本

日本のインディペンデントは中国と比べればケタ違いの低予算です。『由宇子の天秤🔗』も約1500万円でつくりました。資金はすべて自分で集めました。親戚や大学の教授から借りたり、クラウドファンディングや文化庁の助成金、僕の資金はその3つからです。作品をつくるにあたっては認知度の高いキャストまたは原作を使わなければ資金が集まらないという現状があります。オリジナルのストーリー、社会的にテーマ性の重いものをつくろうとすると自分たちで集めるしかなく、低予算になってしまう。宣伝費もかけられない。ではどうやって多くの人に見てもらうか、いちばん武器になるのは何かと考え、まだ公開が決まっていなくとも海外の映画祭でノミネートされたり賞をとることで注目してもらうことだ、まずそれを目的にしようと作り始めました。賞をとって配給宣伝につなげていく。市山さんにはいろんな映画祭につないでいただき、結果としていくつかの映画祭の冠をつけることができた。そういう苦しいなかで作っていて、しかも日本だけで回収することは難しい。なので、中国やヨーロッパなど市場が大きい、またはアート映画の市場があるところで公開しなければ、といった課題があります。

このカンファレンスで、今後、どうしたら中国の出資を得て共同製作をすることが可能になるなのか、中国のマーケットを活用できるのか伺いたい。

2 中国でのアート映画制作の環境はよくなっています (李)

驚きです。1500万円でこの素晴らしい作品が撮れるとは!

中国ではアート映画にも2種類あります。

ひとつは自分で資金を集めて製作する作品です。撮影と同時進行で、製作しながら資金調達するやり方です。

非常にアーティスティックな映画でしたがヒットとなったビー・ガン監督の『凱里ブルース🔗』は20万元(320万円)の予算だったが、この作品が成功したおかげで2作目『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ🔗』は潤沢な資金を得られました。

もうひとつは、スターが出るアート映画です。ひとりかふたり、スターを起用する。商業映画だけでは満足しない、あるいはクオリティ作品に出て海外に出ていきたい俳優たちはいるのです。いま、『柳川🔗』のチャン・ルイ監督と仕事をしていますが、アート映画なので俳優のギャラも低いんですが、監督の作品ならと出てくれます。スターが出ていることで、高い興収が狙える。資金調達においてはピッチイベントも活用できます。アート系の製作環境はよくなり、出資が集まるようになりました。

『柳川』中国版ポスター

3 求められるのは共感をよぶ作品です (李) 

作品の中身でいうと、最近の傾向としては“共感をよぶ作品”が求められています。私は『万引き家族🔗』を配給しましたが、都会の中の疑似家族というのが、友人や共同生活の仲間が家族より強い絆で結ばれている、という点は中国の都市部でおおいに共感をよびました。

最近では『花束みたいな恋をした🔗』は8000万元(14.4億円)の興収をたたき出しました。愛があるところから愛が消えていくという共感を得やすいストーリーでレビューサイトでもスコアが高かった。役者は中国では有名ではないが、製作クオリティが高くテーマも共感をよんで、自国作品より高い興収をあげました。バレンタインデー直近の2022年の2月22日という2あわせの公開も話題性が高かった。

日本の作品はほかに『Love Letter』は初恋、『おくりびと』は生と死、いずれも極めて身近なテーマを扱ってヒットしました。

4 検閲は意識して ― 検閲も変化します(李)

春本監督の『由宇子の天秤』は中国人が好む社会的なテーマだが、検閲がとおらないですね。モラルに関することがテーマだと、見る人を選んでしまうこともあります。入り口のハードルを低く設定することも大事ですね。

春本 

中国での検閲まで配慮に入れずに作っていましたので。でも、中国公開を視野に入れてつくるとなるとハードルだなと。具体的にはどういう例がありますか。

大きなルールとして鬼、幽霊はNG、青少年の犯罪も赤裸々な表現はNGです。つまり社会から敏感視される内容は避けたほうがいい。ポリティカルコレクトネスはなくてはならない。共同製作の場合は撮影許可が必要でCFCC※に脚本を提出して申請しますが、その審査でおおよその基準がわかります。映画祭にかかわる人にアドバイスを聞いてみる、のもいいかと思います。方向性を決めて共同製作の中国側のパートナーとコミュニケーションをとりながらすすめていくのがよいと思います。先ほどの例でいえば、女子学生の年齢を高く設定するとか、相手を教師でない職業にする、などに変えればクリアになります。

『由宇子の天秤』はネット配信の可能性は大いにあると思います。

※CFCC = China Film Co-Production Corporation (中国電影合作製片公司)

5 国際共同製作への意欲、あります それぞれの強みを生かせれば可能性はある(李) 

春本

李さんは日本との共同製作にのモチベーションはありますか。

李 

あります。私は韓国との共同製作で『最後の晩餐』を手がけました。シナリオ以外はすべて韓国スタッフでしたが、完成度が高く、中国でも成功しました。韓国と組むメリットは、まず何より効率がいい、日数などのスケジュール管理もばっちり、当時製作技術も高水準でした。結果、作品は低予算でハイクオリティなものになりヒットしました。イタリア、ベルギー3カ国で共同製作しました。アート映画でパフォーマンスはよくなかったが、映画祭での賞はとりました。国際共同製作のメリットはそれぞれの強みを発揮できるということ。

中国の強みはなんといっても資金力、マーケットも大きいので回収も期待できる、それからある監督によれば機材も非常にいいと。中国は俳優は豊富ですが、監督がそれほど多くない。海外のアイディアとクリエイティビティがほしいんです。

日本の強みは、アイディアですね。『万引き家族』9700万元(18億円)でしたが、これが現在の日本の実写作品としては最高興収です。東野圭吾作品『容疑者Xの献身』の中国語版が数本製作されましたが、いずれも高パフォーマンスでした。今年は三谷幸喜監督作品の『マジックアワー』のリメイクも興収がよかったですね。言わなければ完全な中国作品にみえます。技術力と役者は中国から、アイディアは日本からですね。

『最後の晩餐』をつくっている間、私は外国人と仕事しているという感じはなかったんですよね。中日韓は非常に感覚が近いので仕事しやすいと思ってます。気持ちが似通ったところがあるので、それぞれの強みが出せるいいアイディアがもって共通した思いとして表現していくのが理想です。

『最後の晩餐』中国版ポスター

市山 

もちろん可能性あるが日本と中国、両方でヒットする作品を作ろうというのはなかなか難しいんじゃないかと思います。両方を期待して追求していくと結果的に中途半端になってしまい難しい。自分の経験からいうと、ジャ・ジャンク―監督の作品はクオリティ作品として日本では一定の鑑賞層がいるが、制作費を増やしたからといって、あるいは有名な俳優が出ているからといって、興収がはねるかというとそういうことでもない。逆に一定のファン層がいて読みやすいともいえる。先ほど『ザ・マジックアワー』のリメイクの話が出たが、日本と中国お互いのアイディアをリメイクし合うようなコラボレーションはありではないかと僕も思う。

 

6 妥当な制作費や宣伝費はいくらくらいですか?(春本)

春本

といっても、予算の桁が違うんじゃないかなと思うのですが、僕は予算1億円と聞くと潤沢に感じるが、李さんからみて日本との共同製作を考えるとき、リスキーではない妥当な予算ってどのくらいですか?

1億円っていうと、600万元くらいですね。

中国では映画製作の予算は3通りと考えていいと思います。

1 1000万元以下(約1.8億円以下)

2 1000万~5000、6000万元(約9億円~10億円)

3 それ以上の大型作品

ですね。これらの違いはキャストの報酬です。市場からのリターンは期待できない作品で

最も多いのは3000~5000万元、それ以上だと回収が容易ではなくなってきます。

それから宣伝費ですね、宣伝費は製作費と同額です。旧正月などハイシーズンは製作費を上回る宣伝費が投下されます。宣伝はSNSが圧倒的に大事でTikTok、Weiboが非常に重要です。続いてインシアタープロモーション、キャストによるキャンペーンツアーなどです。

日本はどうでしょうか?

市山

商業映画はやはり製作費と宣伝費は同じですね。インディはそうはいきません。

春本

『由宇子の天秤』は、、、600万円です!自力で毎日ツイートしてました。 

『最後の晩餐』の宣伝費は?

1000万元(1.8億円)だったかな、、と思います。いい作品はすぐ話題になります。

『万引き家族』でいえば、カンヌでパルムドールをとったし、是枝監督は海賊版を観たベースとなるファンがいるんです。『菊次郎の夏』も配給したんですが、北野武監督は中国で最も有名な日本人のひとりかもしれないですね、何をやっても常に「トレンド入り」しちゃうんですよ。コロナ が収まった直後(映画市場がまだ回復していない)国慶節の直前、あまり良いシーズンではない公開でしたので、興収はそれほどでもなかったんですが、話題作りには事欠かなかったです。

春本

社会問題に寄り添うのは日本の監督の独特の属性かもしれないですね。

ユーザーが媒体になるんです。コミュニティができることでヒットにつながりますね。海賊版で高評価になったら話題になる。例えば『存在のない子供たち』。海賊版で火がついてからの劇場公開で4億元(72億円)までいきました。ディズニーの『アラジン』をぬいて、ですよ。中国の市場は若く、不安定なだけにときどきこうした“奇跡”が起こるんです。話題性があって共感しやすい作品であれば可能性がある。中国のユーザーは若いので、ハリウッドへの憧れは日本ほどありません。『スターウォーズ』はさっぱりです。

逆に非ハリウッドの外国映画に可能性があります。インド映画『ダンガル きっと、つよくなる🔗』は200億円もいきました。

李 

そうですね。海賊版といえば『万引き家族』を上海でプレミア上映した際、是枝監督をお招きしたんですが、『ワンダフルライフ』のDVD、北京大学時代に買ったものなんですが、「これが私の監督の作品との出会いなんです。サインいただけますか」とお願いしたところ、一瞬フリーズしてから快くサインしてくれました。80年代生まれの私たちはクオータ制のおかげで外国映画との接点はなかったなので海賊版のおかげでベースができたんです。『パラサイト 半地下の家族🔗』のポン・ジュノ監督作品も『スノーピアサー』以外はほとんど海賊版で観られてます。海賊版がファン層をあつくしてきたんです。

つまり、マーケティングの手法によっては旧作も新しい打ち出し方ができるということです。北野監督の回顧展を北京や深センで行いましたが、チケットシステムがダウンするほどの評判でした。『おくりびと』も旧作ながら凝った宣伝をした例です。映画館に納棺士を配して「この納棺士と握手したいですか」というマーケティングをやって相当な話題となりました。 

7 どんな国際共同製作作品をつくりたいですか?(徐)

春本

作り手としては「なぜ今それを作るのか」をいちばん大切にしたい。日本人のフィルムメーカーは社会問題に寄り添う作品を作るのが特性かと思われていて、僕はそちら側の人間なので、中国においては李さんのおっしゃるように入り口をひろくする、共感を呼ぶことを意識したものを考えなければ、と思いました。それを自分の訴えたいテーマとどのようにミックスできるか、中国側のプロデューサーとなる方と話し合っていく必要があるなと感じました。

李 

ポストコロナには共同製作が必要です。人の往来ができないからこそ共感が求められています。そういうストーリーを、まずはどちらかのマーケットでヒットしそうな、観客の心を動かす題材を選ぶことですね。

春本 

共感度はどのくらいか、という基準が知りたい。『最愛の子🔗』は一人っ子政策の悲劇を扱った社会派作品ですがどう受け止められたのですか?

李 

(スマホ検索)2014年ですね、興収3.4億人民元いきました。シリアスで話題性も高い、と両方を備えたものでした。

市山  

『最愛の子』、実は大人気の有名俳優が出ているのは大きかったのでは?

でも今なら検閲にかかるのではないだろうか。

李   

検閲の基準も変化するんですよね。一方で社会的な話題は深堀りすればするほど敏感になってくる、これは仕方がないことですね。

春本  

生々しいお金の話ですが、、、映画祭上映でのチケットが完売で話題なのに、海外にライセンスすると数百万円にしかならないのはなぜなんだろうと。

市山

日本でも同様に、映画祭で満席になってもヒットするとは限らないですね。

李 

都市部、特に上海では600席程度のスクリーンでは日本映画ファン層をとりきれなくてあふれてしまうんです。なので映画祭での反応をみて全国的な市場のパフォーマンスを判断するのは避けたほうがよいと思います。もちろんひとつの判断材料にはなります。一般層に拡がりが期待できるかどうか、アート映画だからこそ映画祭だけで判断したくないですね。

一方で、『万引き家族』の場合、カンヌと上海の映画祭はとても重要で、上海映画祭を宣伝のピークと設定しました。わざと1回しか上映せず、ネットでは「万引き家族のチケットでマンションが1件買える」と話題になりそれがいい宣伝になりました。その1か月後に全国公開し、その間に口コミを大きく広げられ、鑑賞意欲をあげることができたんです。

徐 

共同製作をする場合、リメイクという選択肢はあるのでしょうか?

市山  

可能性としてこういうのができたら面白い、というのは、日本の監督が中国で撮ることを前提として自分でシナリオを書いて監督するというもの。内容が検閲に通るか、中国のマーケットに合うか、中国側のプロデューサーと話し合いながら、中国のスターを使って撮るという方法ですね。またはその逆で中国の監督が日本で撮る、でもいいと思う。最近の例でいうと岩井俊二監督の『チイファの手紙🔗』、このような日本の監督が中国で撮ることを前提とした取り組みは面白いと思う。

韓国は監督も多く、15年くらい取り組んで、監督の脚本家と監督が中国で撮影することを想定してかなりの数の企画開発をしました。でも中国を知らない、来たこともないのに、例えば韓国人が中国に行く、中国人が韓国に行く、といった設定にして想像まかせで書いていくわけです。するとだいたい劣悪な脚本ができてしまう。相関関係がおかしい、中国人の話し方や感情表現がおかしい、そういうものには納得がいかない。『最後の晩餐』、『二十歳よもう一度』は韓国人が書いた韓国の物語なのでそういう違和感はないわけです。それを中国人が中国のストーリーに書き直す。書き直せるものもあれば直せないものもある。核となる部分を残しつつリライトするのが成功するためのベースです。リメイクのほうが成功事例が多く、オリジナルは少ない。本来あるものからローカライズするのがよいと思います。

岩井監督の『チイファの手紙』は、私はオリジナルの『ラストレター』のほうが好きでしたし、監督らしさを感じました。昨年の『Love Letter』のリバイバル上映もとても成功しました。

『二十歳よもう一度』中国版ポスター

徐 

ローカライズの重要性、と同時に中国の人を感動させる難しさは課題ですね。

8 中国と共同製作する際の一番の懸念って何ですか?(李)

市山 

不安はないです。現場ではお互いやり方の違いがあるでしょうからお互いに歩み寄らなきゃいけないと思いますが、映画のことをわかっているプロデューサーとであれば、お互いにマーケットに合うかどうかそういった話をしていければ不安はないです。

日本ではすごく面白いと思うストーリーが中国ではあまり面白くない、といったときに、企画をどうするのか、やめるのか続けるのかをどう判断するか、ですね。そういうときに相手のプロデューサーが今までどういう作品をやってきたのか、この人なら話がわかるだろうな、というようなことがあれば開発できるんじゃないかなと思います。

春本 

脚本、企画のクリエイティブのことだけかなと思います。予算や回収といったプロデューサー視点のことについてはまだまだ勉強不足もあります。あと検閲の問題に関して、途中でここをもうちょっとセーフにしておこうとかいうことが出てくるとなかなかつらい気がする、というところですね。ギリギリを攻めるタイプなので。

李 

一番重要なのはプロデューサーですね。お互いのコミュニケーション、予算の管理、クリエイティビティにおいても、コミュニケ―ションが得意ないい相手を見つけることですね。どういった題材で誰をターゲットにするか、それを中国側に説明できるか、すべてはコミュニケ―ションに尽きます。

お互いのやり方の違いによるものだと思いますが日本はとにかく返事が遅いです。メールで1週間じゃだめです。『万引き家族』でギャガさんはWeChatでたいへんスピーディな対応をしてくれた。きちんと説明すればマーケティングのアイディアもアプルーバルを出してくれました。中国での成功はこれが非常に大きかったです。もちろんそれが普通だとも思っていませんが、理由がわからなくノーと言われるたびに、ではどうしたらいいか代案がわかるといいなという思いはあります。

スピード感をもって対応することが非常に大事ですので、せっかくの交流の機会を逃してしまわないように、今後もこのようなディスカッションをどんどん続けていければ日本と中国とで共同製作ができる可能性は広がると思います。今日はどうもありがとうございました。

 

カンファレンス考察

 

 

 今回の「日中映画製作者カンファレンス」では、直接の交流は叶わなかったものの、日本・中国の映画製作者が活発に意見を交換する場となりました。中国は大型エンタメ作品が市場の中心であるイメージが先行してしまいがちですが、李プロデューサーのお話を通して、アート系の製作環境はよくなり、出資が集まるようになってきていることが見えてきました。共同製作を進める上では、中国側の製作者のサポートを受けながら変化する検閲に対応し、共感性の高いテーマを選ぶことがポイントとして挙げられています。

 また、李プロデューサーの発言から、旧作であっても高い興行収入に期待できる、非ハリウッドの外国映画に可能性が高いなど、中国は特殊な市場を窺い知ることができました。日本作品のリメイクが数多く成功を収めている現状などを踏まえると、中国との共同製作も門戸が開かれているのではないでしょうか。双方の事情を理解しながら中国の映画製作者と積極的な交流を続けることができれば、それぞれの強みを生かした作品作りが可能であるとの見解が得られました。

 

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